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JPPA 日本ポジティブ心理学協会
2023年度 第8期 ポジティブ心理学プラクティショナー
養成・認定コース(全課程オンライン講座)のご案内
期の途中からでも受講をスタートしていただけます。
JPPA 日本ポジティブ心理学協会
2023年度 第8期 ポジティブ心理学プラクティショナー養成・認定コース
2023年5月~2024年3月(全30回・総計180時間*・全課程オンライン講座)
期の途中からでも受講をスタートしていただけます。
(*国際ポジティブ心理学会の倫理ガイドラインに基づき、ポジティブ心理学の資格認定は156時間の受講を修了された時点で可能となります。
また、当コースの特徴として、修了後も、追加受講料なしで学習を継続していただけます。)
当コースの通常のご案内は、こちらのページをご覧ください。
【補足のご案内】当コースの特徴~「ポジティブ心理学沼」にはまる
宇野カオリ(主任講師。以下、宇野):当協会の「ポジティブ心理学プラクティショナー養成・認定コース」では、毎期、新しいご案内文を掲載させていただいています。今回は趣向を変えて、基本的なご案内に加えて、コースTA(ティーチング・アシスタント)の堤智子さんとお話しながら、補足的に当コースをご紹介させていただきます。
(当コースのご案内文として掲載するにあたり、後で加筆修正した箇所もあります。何卒ご了承ください。)
堤智子(TA。以下、堤):よろしくお願いします!
宇野:堤さんは、当コースの第4期修了生でもあります。今期も、前期に引き続きTAの継続をお願いさせていただいた際、「私は『ポジティブ心理学沼』にはまってしまったのでいいですよ!」と快諾してくださいました。おもしろいことを仰る、と大笑いしてしまいました。
堤:ポジティブ心理学というのは、思っていた以上に学ぶ事柄が多いです。しかも一言で「どういうものです」と説明しにくい、それはそれは深い沼です。以前学んだことでも、自分が理解していなかったところが分かったり、逆に理解が深まっていたりする発見もあるので、コース修了後も継続して学べるのはありがたいです。
宇野:当コースでは、約1年間の受講期間中に、お仕事やご家庭の都合で、講座を欠席したり、期の途中で受講を中断しなければならない方々もいらっしゃいます。もちろん、講座の録画(受講期間中、いつでもアクセスできます)でフォローしていただくこともできますが、ライブ(リアルタイム)で講座に参加したいという方は、次年度以降、追加受講料なしで、ご希望の講座を再受講していただけます。
堤:「再受講講座」ですね。あと、「オープン講座」というのもありますよね。
宇野:はい。「オープン講座」というのは、受講期間中に出席した講座でも、希望すれば、次年度以降、こちらも追加受講料なしで、何度でも受講できるという講座です。内省に重きを置く講座や、日々の生活の中で意識的に経験を重ねることで会得できるような内容の講座があります。そうした講座には定期的に戻ってきていただくことで、ご自分のよい変化に気づいていただけるという利点があります。
それから、全修了生の方々を対象に、既に学んだ内容をアップデートする講座が必須だと思っています。
ポジティブ心理学というのは科学的な探究ですので、日進月歩で、研究による解明や、応用実践の現場からの事例報告などが更新されています。アップデートを行わないと、10年以上も前に更新されている情報なのに、今日でもまだ有効な情報であるかのように扱ってしまいかねません。実際、そのような情報が、本に書かれてあったり、ポジティブ心理学関連の資格講座でも教えられていたりする、という現状があります。
堤:毎年新たな沼が追加される…アップデートの講座も楽しみにしています!
ところで、このプラクティショナーコースのありがたい点と言えば、欠席しても講座の録画が視聴できることですよね。出席した授業も再度録画で確認できるので、何度でも沼に飛び込めるのがいい!第5期(2020年度)からコロナ禍となって、オンライン講座へと切り替わったことの利点ですよね。
宇野:堤さんは第4期で学んでくださったので、教室で実施した講座としては最後の期となりましたね。もっとも、当時も、教室に機材を持ち込み、TAの方に講義を撮影していただいて、欠席した受講生の方にはその録画を視聴していただいていました。
堤:コロナによるいろんな規制も緩和されてきているようですが、もう以前のように教室での授業はやらないのですか?
宇野:今期(第8期)はまだ教室での実施は見送り、完全オンライン講座となります。将来的にも、基礎理論課程はオンライン講座で実施する予定です。ただ、応用実践課程の講師の先生方の中には、教室での再開を所望されている先生もいらっしゃいます。受講生の中にも、対面で学びたいと希望する方々はいらっしゃいます。
オンラインになったことで、東京以外の各地から参加しやすくなり、海外在住の方も受講してくださるようになりました。また、小さなお子さんと参加されたり、猫がくつろいでいる風景も見られるようになりました。このようなオンラインの良さと、教室ならではの良さをどう統合していくか。
例えば、この5月から始まる「ポジティブ・チェンジエージェント養成講座」(ポジティブ心理学を組織開発に応用した講座)がそうですが、将来的には、一部の実践型の講座は、ハイブリッド型(オンラインでも、教室でも、いずれかを選択して学べるスタイル)にするなどしてもよいかもしれません。
堤:それから、昨年度(第7期)から、年度の途中からでも受講ができるようになりましたね。
宇野:はい。以前より、期の途中で、その期のお申込みフォームを送っていただいたり、「今度はいつから受講できますか?」といったお問い合わせを協会事務局にいただいていました。オンライン講座となり、動画教材なども弾力的に使っていただけるようになったこと、また、「学びたいと思ったときが学びどき」ということもありますので、1年間、お待たせしてしまうことなく、途中からスタートしていただけるようにしました。
既に終了した講座については、再受講講座と同じ扱いとなります。つまり、期をまたいで、同じ内容の講座を受講していただけます。録画視聴による受講時間数が足りていれば、同期の受講生とともに、来年春に修了していただくこともできます。
※期の途中からの受講に関しましては、初回講座(5月20日)のお申し込み受付が終了次第、お申し込みフォームに反映させていただきます。
堤:修了後も無料で受講できることも大きいと思いますが、受講生から「JPPAさん(当協会のこと。英略記は[ジャッパ]と読みます)は良心的だ」という声もよく耳にします。私も一瞬(笑)、費用面で受講を躊躇したのですが、世界中の最新の学術的な内容に日本語で触れられること、あと、単純に、授業の時間数で割ってしまうと、決して高くはないと考え、JPPAでの受講を決めました。
宇野:そう言っていただけると何だか救われます。ポジティブ心理学の学問としてのおもしろみや深み、そして応用実践のダイナミズムなどを、素晴らしい講師陣により、受講生の皆さんに適正な価格でお届けできればと、今の受講料が設定されました。
実は、約10年前に、本邦初の本格的なポジティブ心理学講座としてこのコースを開講したとき、受講料をどう設定してよいか分からないままスタートしてしまいました。私自身が民間で資格講座を開講するというのが初の試みだったこともあるのですが、ペンシルベニア大学大学院での教育方法に準拠した講座、というのが前例のない試みだったのもその大きな一因でした。
ある日、第1期のある受講生の方が、授業の休み時間に私の元に来られて、「先生、この講座、安すぎます」と耳打ちされたんです。そこで、他の生徒さんにも聞いてみたら、皆さん一様に頷かれる。そのようなご意見を受け、第1期修了後、理事会(当時)で、研修などの経験が豊富な修了生の方々にもご同席いただき、今の受講料に改訂になった、という経緯があります。
堤:それはおもしろい話ですね...
宇野:それから、これは初めての開講時から今日まで、自分の内で変わらずくすぶっている感覚ですが、私自身は「資格を付与する」という行為に大きな抵抗感があります。世間一般には、当コースのような取り組みも、いわゆる「資格ビジネス」として括られてしまうのでしょうが、それも実は不本意に思っています。
私は、ポジティブ心理学の創始者の一人で、ペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・セリグマンが、ポジティブ心理学の高等専門教育を行っているペンシルベニア大学大学院で学位を取得しました。その時点で、人様に「ポジティブ心理学を教える」ことは一通りできるようになったかもしれません。ただ、「資格を付与する」という社会的な責務を担うに足る存在になったのかどうか。
この点、セリグマンに相談したら、「私があなたに(人に資格を付与する)資格を与えましょう」と言われました。私が大笑いしたら、セリグマンも自分で言ったことにウケたらしく笑い合ったのですが、いずれにせよ、教えることと、資格を付与することは、別問題だと思いました。
ただ、この点は、第1期の開講前に、理事会で、「生徒にとって、資格を取得するというのは、学ぶモチベーションになる」「自分たちの協会でやらなくても、ポジティブ心理学の資格講座は、近い将来、乱立するのではないか。そのときに受講生から、『何でこちらの協会では資格が取れないのか』と不満が出るのではないか」と指摘されました。それもまたごもっともな意見だと思いました。
堤:私も、もし資格が取れない講座だったら、学べることは学べるのでそれはそれで満足ですが、講座が終わった後で、ちょっと残念だなと思ったかもしれません。
宇野:やはりそうですよね。そこで、理事会での意見と、自分の抵抗感との暫定的な折衷案として、当コースでの資格取得は、「パスポートを取得する」というコンセプトでいこうと思いました。講座が続く限り使えて、学び続けることができる永年パスポートです。資格を取得することがゴールで、名刺に資格名を印刷して終わり、ではなく、パスポート、つまり資格を取得した時点で、皆さんはさらなる発展へのスタート地点に立つ、といったイメージです。
ポジティブ心理学はまだ比較的新しい分野であることもあり、あらゆる取り組みが初の試みで、なかには画期的なものもあります。当コースのこうした「資格取得=パスポート取得」というコンセプトも、そうした「ポジティブ心理学らしさ」の一端を示すものであってほしいと思っています。
宇野(続き):ただ、もちろん、これは強制ではありません。皆さんなかなかお忙しいこともあって、資格を取得したらもう学習を継続されないという方も多くいらっしゃいます。それでも、これから先々、ふと、また久しぶりに学んでみたいと思ったら、帰って来られる場所でありたいと思っています。
堤:講座がある限り、一生学び続けられる。大変ありがたいです。でも私みたいな生徒が増えたら、どんどん時間単価下がりますけど、協会は大丈夫ですか?!(笑)
ウェルビーイングの科学・ポジティブ心理学~「よい生き方」や「よい社会」の探究
宇野:堤さんの「ポジティブ心理学沼にはまる」ですが、ポジティブ心理学の包括するテーマの幅広さ、研究と応用実践の両輪という特徴、そして、先ほど述べた、科学としての探究であることなどを考え合わせると、ずっと学び続けることは、あるいは必然的なことなのかもしれません。
堤:ガイダンスの授業の中で、象の絵で、ポジティブ心理学の幅広さについて説明されていたことがありましたね。
宇野:「群盲象を評す」という、インドに由来するという寓話がありますが、その喩えを用いました。ポジティブ心理学はいわば「巨大な象」で、多種多様な研究や応用実践で構成されている分野なのですが、象の体の一部に触れた途端、「ポジティブ心理学とは何々だ」と言い切ってしまうことの危険性を示唆しました。
当コースの授業スライドの一(ガイダンスより)
堤:私は、確かこのコースを修了した直後だったから第5期だと思うのですが、第5期の案内文に掲載されていた、西川耕平先生(甲南大学EBA高等教育研究所 教授)による「2つのポジティブ」の図が、ポジティブ心理学のスタートとして分かりやすいと感じた覚えがあります。
宇野:はい。第5期の修了生の方々からも同じような声をいただきました。西川先生には、第5期から、応用実践課程の講座に加え、基礎理論講座のガイダンス授業で、「ポジティブと自己理解」というテーマでご登壇いただいています。
この前、西川先生に伺ったところ、図はその後アップグレードされて、4象限になったようなのですが、出典(西川先生の学術論文)が確認できるまで、取り敢えず、第5期のご案内文で掲載した版を再掲載させていただくことにします。
堤:改めて、ポジティブ心理学の定義ですが、授業で、「ポジティブ心理学は、ウェルビーイングの科学として理解されている」と説明されていました。
宇野:「ウェルビーイングの科学的な研究について、最もよく知られた総称がポジティブ心理学」というのが、最近の複数の学術論文に明記されている定義です。ただ、これは、最近になって新たに出てきた定義というわけではなくて、ポジティブ心理学は元々、ウェルビーイングの構成要素である「よい生き方」や「よい社会」を科学的に探究する学問なのです。
先ほど、ポジティブ心理学として包括されるテーマが幅広いと言いましたが、それらのテーマはほぼほぼ、「ポジティブな経験」と「ポジティブな特性」(よい生き方)、そして両者を促進するポジティブな制度(よい社会)のいずれかに分類することができます。
(3つの分類の詳細については、こちらのご案内ページの「ポジティブ心理学研究・実践の3本柱」でご覧いただけます。)
ウェルビーイングについては、ポジティブ心理学のムーブメントを拒否する一部の学者たちを除き、おおよそポジティブ心理学の傘下に集結しています。実際に、海外では、ウェルビーイングに関する研究も実践も既に豊富で、日本の10年か15年ほど先を行っている感じです。私たちは、道を切り拓いてくれた先駆者たちの労苦に感謝しながら、虚心坦懐に、彼らの智慧に学んでいけばいいのではないかと思います。
堤:最近、ウェルビーイングという言葉を企業の経営課題に入れるのが流行っているようですよ!
宇野:今日のような状況は、あらゆる方々のご尽力があってのことだと思います。これは私の個人的な見方かもしれませんが、昨今の日本における、いわゆる「ウェルビーイングブーム」の具体的な火付け役となったのは、約5年前のセリグマンの来日だったように思います。世界中で、セリグマンが動く先々で、ポジティブ心理学に関する何らかのムーブメントが起きています。セリグマンは、「人を熱狂させる天才」と言っていいかもしれません。
とはいえ、セリグマンが初めて来日した約25年前には、当時を知る方々に伺った限りでは、何の主だった動きも起きなかったようです。そのため、今日のウェルビーイングブームは、やはり時代の要請というか、機が熟していた、ということが大きかったと思います。
現在のウェルビーイングブームの起こりが、ビジネス主導で、アカデミック主導ではなかったことを危険視する大学の先生方もいらっしゃいます。ただ、もし火付け役が本当にセリグマンだったとすれば、そこに一条の光はあるわけです。
ポジティブ心理学の礎を築いた二人、(左)マーティン・セリグマン(白黒写真だが存命)、(右)クリストファー・ピーターソン(2012年逝去)。ピーターソンを紹介するときに、セリグマンが好んで使う写真。その他にも、自己効力感で著名なアルバート・バンデューラ、フロー理論やクリエイティビティ(創造性)研究で著名なミハイ・チクセントミハイ、主観的ウェルビーイング(主観的幸福感)研究の先駆者として没後の再評価が始まっているエド・ディーナー(いずれも2021年逝去)など、大勢の第一線の学者たちが一同に集い、自分たちの研究成果を惜しみなく分かち合い、分野の礎を築いていった。
宇野(続き):海外で展開されているような、多面的・多角的な視座によるダイナミックな議論はこれからだとしても、日本でも「ウェルビーイング」という言葉の認知度が高まることは、ポジティブ心理学にとってはむしろありがたいことだと私は思っています。何よりも、自分自身、ポジティブ心理学について、人様に飛躍的に説明しやすくなったという状況が、一昔前に比べるとまるで奇跡のようです。
ウェルビーイングの科学に関心を持たれている全ての方に、世界中の人を惹きつけてやまないポジティブ心理学を知っていただけるような機会が訪れたら、どんなに素晴らしいことか知れません。
ウェルビーイングのスペシャリスト養成~世界基準でポジティブ心理学を学ぶ
堤:講座の中では、セリグマン先生やピーターソン先生(当コースのテキスト、春秋社刊『ポジティブ心理学入門』の著者)のほかにも、ポジティブ心理学のいろんな学者たちが出てきますよね。
宇野: ご案内(このページ)では紹介しきれないのですが、ポジティブ心理学者は世界中に数え切れないほどいます。ポジティブ心理学は学問ですので、例えば、一つの考えをめぐって、複数の研究者たちによる信憑性の高い学術論文を読みながら理解していく作業が求められます。研究を知るためには、本ではなくて論文にあたるしかない場合も多くあります。しかしなかなかそうもできない。特に社会人は、仕事をしている傍らで、そんな手間暇が取れる人はほぼ皆無です。
ポジティブ心理学研究が行われている国/地域。※図中の国/地域名の翻訳は、後日付す予定です。
Wang F, Guo J and Yang G (2023) Study on positive psychology from 1999 to 2021: A bibliometric analysis. Front. Psychol. 14:1101157. doi: 10.3389/fpsyg.2023.1101157. Figure 2. Map of countries/regions in positive psychology research.より転載。
宇野(続き):実務家の方々が常に求めているのは、信憑性の高い論文から知ることのできる研究が、正しく、かつ分かりやすいように噛み砕かれ、それが自分たちにとって有益な知識情報となるとか、現場で即戦力に繋がるような応用実践の技法が習得できるとかなのです。ところが、論文が噛み砕かれる段階で、元の研究が損なわれてしまう場合が多い。
ほとんどの方が自己啓発系の本などで目にする「ポジティブ心理学」は、確かに分かりやすいかもしれないけれども、もはや実際の研究からはかけ離れてしまい、正しいとは言えない場合も多々あります。もちろん、このようなことは、ポジティブ心理学に限らず、どの分野でも同じようなことが起きているわけですが。
「信憑性の高い」と言いましたが、字面(じづら)だけで情報収集すると、全て一律でフラットに見えるため、限られた理解しかできないことにも注意が必要です。
例えが適切かどうかは分かりませんが、果物が店頭に陳列されているのを見ると、新鮮な果物が揃っているものと思いがちです。ただ、よくよく目を凝らして見てみると、中には腐った果物もあるかもしれません。何か本質で、何がそうではないのか。何が純粋に学問由来で、何が政治的、あるいは恣意的な人間関係の影響によるものなのか。
「巨大な象」ポジティブ心理学の全貌を正しく理解するためには、フラットではなく、凹凸の強弱や、その行間を読み解いていくような作業が必要となります。それが、独学で本を読むのだけでは得られない、このようなコースで包括的かつ体系的に学ぶ最大のメリットかもしれません。
堤:私も、このコースで学ぶ前は、自分でポジティブ心理学の翻訳本などを読んでいましたが、このコースで学んでからは、本には書かれていない背景などについても想像ができるようになりました。
宇野:セリグマンは、ペンシルベニア大学大学院で、約20年前に、ポジティブ心理学の高等教育に乗り出し、ウェルビーイングの研究と実践のスペシャリストの養成を始めました。ウェルビーイングのスペシャリストは、ポジティブ心理学として体系化されているウェルビーイングの科学を、広く社会に応用していくことが期待されています。
当コースは、約10年前の第1期開講以来、ペンシルベニア大学大学院で採用されている教育方法に準拠しています。今日的な状況を考えれば、私自身が今も昔もそのような教育方法しか知らずにいるということが、むしろ幸いしたかもしれません。海外から日本へ直輸入するしか能がない、というのが正直なところです。
当コースで学んだ皆さんには、ウェルビーイングのスペシャリストとして、ますます活躍の幅を広げていただきたいと願っています。将来に向けて、ウェルビーイングをめぐり、新たな職も創出されていくことでしょう。20年前から変わらず、セリグマンの関心事の一つは、まさにそこにあります。
2019年度ペンシルベニア大学年次大会で、教え子たちの前で話すセリグマン。セリグマンが自分の考えていることを心置きなくカジュアルに話せる、数少ない場所の一つ(宇野撮影)。動画は、字幕等の準備が出来次第、掲載します。
宇野(続き):ポジティブ心理学は、よく「エポックメーキング」(epoch-making. 社会や文化に大きな変革をもたらす有意義な出来事や発見。いわば画期的なこと)と称されます。ただ、セリグマンも昨年で齢80となり、ペンシルベニア大学の自分の教え子たちに向けて、「もう自分は、ポジティブ心理学を牽引するという役目からは引退した。これからはあなたたちがポジティブ心理学を担っていきなさい」と宣言しました。ポジティブ心理学の真価は、今後も長い時間をかけて問われていくことでしょう。
堤:これはもう、ポジティブ心理学とは一生の、というか、世代を超えてのお付き合いになることは確定ですね(笑)。
客観的データで見るポジティブ心理学~第一人者から学んで徹底理解する
宇野:ご案内の最後になってしまいましたが、具体的に、ポジティブ心理学の包括する科学的な研究としてどのようなものがあるか、最近出たばかりの論文からご紹介できればと思います。
これは、「ビブリオメトリクス(計量書誌学)」という手法を使って、研究の発展動向を定量的に示そうとする試みです。
ポジティブ心理学の研究論文における参考文献の共引用ネットワーク分析から得られたクラスターの可視化。※図中の各クラスターの翻訳は、後日付す予定です。
Wang F, Guo J and Yang G (2023) Study on positive psychology from 1999 to 2021: A bibliometric analysis. Front. Psychol. 14:1101157. doi: 10.3389/fpsyg.2023.1101157. Figure 7. Reference co-citation network analysis of publications in positive psychology research. Cluster visualization of the reference co-citation map.より転載。
堤:この図は、世界地図か何かですかね?
宇野:確かに、世界地図のようにも見えますね!これは、CiteSpaceというソフトウェアを使って生成された、共引用分析(学術文献間の引用関係を分析する手法の一つ。特定の分野において、最も影響力のある研究者や研究テーマなどの情報を客観的に把握することができる)のクラスターを可視化した図です。分析の結果、大きなクラスターとしては28あって、うち最大の11のクラスターは上の右の表(※モバイル表示では下の表)のとおりです。
ただ、この分析は、中国人研究者たちによる力作ではあるのですが、まだ分析途上というか、完全なものではないということを論文の査読委員の先生方に確認しています。ただ、大筋のところではポイントが押さえられていると思います。
この図で注目いただきたいのは、クラスター1の、「キャラクターストレングス」という研究分野の広がりの大きさです。キャラクターストレングスは、ウェルビーイングの議論に欠かせない概念です。キャラクターストレングスが「ポジティブ心理学の屋台骨(バックボーン)」とも称される所以です。
キャラクターストレングスでは、「徳」や「最高善」という概念が鍵となりますが、ギリシャの哲学者にして万学の祖であるアリストテレスに由来するこの概念は、ポジティブ心理学では科学的な探究の対象となっています。私はアメリカで初めてポジティブ心理学に触れ、最先端の心理学の科学で最古の叡智を扱っていること、何よりも、形而上学的な概念に対して、心理学で果敢にアプローチするという姿勢に、ピーターソンの授業中、椅子から転げ落ちるような大きな衝撃を受けたことを昨日のことのように覚えています。
堤:今年はキャラクターストレングス講座のテキストとなる翻訳書もできあがるということで、受講生の皆さんの学びが深まりそうですね。
宇野:はい。キャラクターストレングスは、学校における「ウェルビーイング教育」(「レジリエンス教育・ポジティブ教育」のこと。近年は「ウェルビーイング教育」と称されることも多い)の現場には欠かせない、中心的な概念であり、実践的な介入方法です。ウェルビーイング教育では、キャラクターストレングスを活用することにより、社会的スキルの獲得はもちろんのこと、学業成績も伸ばしていくことが主眼となっています。
(左 ※モバイル表示では上)今年中に出版予定の『キャラクターストレングス:「徳性の強み」でよく生きるポジティブ心理学』(ライアン・ニーミック著、春秋社)の装丁ラフ(装丁の色味は、印刷時に変わる場合があります)。装丁デザインは、原書にある白黒の図に彩色し、一部アレンジした。24の徳性(小さな丸で表示)からウェルビーイング向上にアプローチしていく。サブタイトルの「よく生きる」は、「良く生きる」と「善く生きる」の両義から平仮名表記とした。
(右 ※モバイル表示では下)ポジティブ教育を全面導入し、生徒たちのウェルビーイング向上を目標に掲げる、オーストラリアの小学校の様子(宇野撮影)。天井から吊るされた飾りのそれぞれに、24の徳性が色彩豊かに描かれている。宇野が視察に赴いた当日は、偶然にも、佐々木禎子さんの千羽鶴の紹介とともに、広島の原爆に関する授業が行われていた。
宇野(続き):海外のポジティブ教育の現場の視察に行くと、子どもたちにキャラクターストレングスがしっかりと根付いている様子に感銘を受けたりします。こうした実践は日本でも始まっていまして、当コースの第3期の修了生の方などが既に学校を対象に実践介入を行っています。
テキストが揃うこともあり、今期から、当コースでは、キャラクターストレングスに関するより本格的な講座をスタートさせます。今までの3名の講師(講師紹介の欄参照)に加え、新たな4人目の講師に、ピーターソン亡き後、キャラクターストレングス研究の第一人者としてポジティブ心理学を牽引してきた、スイス・チューリッヒ大学心理学部教授で、スイスポジティブ心理学協会(Swiss Positive Psychology Association: SWIPPA[スウィッパ])元代表のウィリバルド・ルフ(Willibald Ruch)にお迎えします。ルフは、セリグマンにより、「新生クリス・ピーターソン」と命名された人です。ヨーロッパのポジティブ心理学の若手研究者や実務家の多くは、ポジティブ心理学の初期の頃に、ルフから指導を受けています。ルフはまた、私の共同研究者であり、よき理解者でもあります。
ポジティブ心理学の研究論文による著者マップ。※図中の各研究者名の翻訳は、後日付す予定です。
Wang F, Guo J and Yang G (2023) Study on positive psychology from 1999 to 2021: A bibliometric analysis. Front. Psychol. 14:1101157. doi: 10.3389/fpsyg.2023.1101157. Figure 5. The authors’ map of positive psychology research.より転載。
宇野(続き):上の図の、ポジティブ心理学者としての研究の影響力を示す客観的指標で、最も大きな丸(オレンジ色)で表示されているのがルフです。あと、この図でもう一つ印象的なのは、ピーターソンが亡くなってもう10年になるのに、いまだにセリグマン(緑色の丸)に最も近い位置で、丸(水色)が大きく記されていることです。短い人生だったけれども、それだけ大きな業績を、ピーターソンは私たちに遺していってくれた、ということです。
日本の皆さんにとって、この図に示されている研究者名は、ほとんど触れたことのない名前ばかりだと思います。第一線の学者は、研究に加えて、大学での教育指導などでかなり忙しいこともあり、それほど頻繁には皆さんとお目にかかれないのです。ルフは、幸いと言っては何ですが、今年で定年を迎えました。そのタイミングを見て、今期から当コースの講師に引っ張り込みました。
当コースには今まで、国内のみならず、海外からもポジティブ心理学の研究者や実務家をお招きして指導していただきました。これからも皆さんには、国内外の優れた講師に触れていただいて、ポジティブ心理学のおもしろさや楽しさを堪能していただければと思っています。
どんな質問をしても、何でも答えてくれます。時間など気にせず、授業終了後でも皆さんが心ゆくまで延長時間を設けますので、どうか遠慮せず、ご自分が腹落ちするまで質問していただければと思います。(海外講師との質疑応答は、宇野が通訳を務めますのでご安心ください。)
そうやって、キャラクターストレングスを確実に自分のものにしていただき、ご自分たちの現場で存分に活用していっていただければと思っています。
堤:ルフ先生のYouTubeの動画を見てみましたが、ルフ先生はユーモア研究でも有名なのですね。
宇野:はい。ルフは元々、ユーモア研究で知られていました。ユーモアというのは、キャラクターストレングスの24徳性の一つですが、ピーターソンがVIAキャラクターストレングスの分類体系を開発した際、ユーモア研究の専門家として開発チームに参画したのがルフです。
それで、昨年、スタンフォード大学ビジネススクールの『ユーモアは最強の武器である』(東洋経済新報社)が出版されて人気であることもあり、ユーモアに対する関心も高まっているということもあると思いまして、今期は特別に、ルフに、キャラクターストレングス研究のレクチャーに加えて、ユーモアの科学的な研究についてもレクチャーしてもらうことにしました。
堤:こちらも楽しみです!第8期もどうぞよろしくお願いします!
(上)「ユーモアの正体 スイスで探求」(「SWI swissinfo.ch - 日本語」チャンネルのYouTube動画より。動画の中では「ルッフ」と表記。)
(下)ユーモアについて出版されている本。ちなみにルフは、一般読者向けの本は一冊も出版していない。理由を聞くと、生真面目な顔で、「もう書店には本が溢れ返っている。そこにわざわざ自分の本を積み上げていく意味が見出せない」と返答したが、これはユーモアを効かせた返答か。実際には、研究者としての本業である論文の出版に徹した結果、というのが本当のところらしい。
(下左)『ユーモアは最強の武器である:スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』(ジェニファー・アーカー&ナオミ・バグドナス著、神崎朗子訳、東洋経済新報社)
(下中央)『ユーモア心理学ハンドブック』(ロッド・A・マーティン著、野村亮太・雨宮俊彦・丸野俊一監修&翻訳、北大路書房)
(下右)『笑いとユーモアの心理学:何が可笑しいの?』(雨宮俊彦著、ミネルヴァ書房)。ルフとも親交のある、関西大学社会学部教授・雨宮俊彦先生による書。
©一般社団法人日本ポジティブ心理学協会
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